トルコの蕾
テーブルの上で、絵美の携帯電話がブーンブーンと音を立て、正樹からの着信を知らせる黄色のライトが点滅する。
「もしもし、俺だけど」
正樹はいつもの優しい声で言った。
「今から行くよ。待ってて」
絵美は緊張のあまり、思わず裏返った声で「は…はいいっ!」と言って電話を切った。
きっと電話の向こうで正樹は笑っているに違いない。自分はどうしていつもこんなふうに彼に笑われてしまうのだろうと絵美はまたしても泣き出しそうになっていた。
いくら下着をかえたって、いくらつるつるの肌になったって、自分はセックスの経験なんてない。
彼との初エッチのタブー、なんて、言っている場合ではないのだ。
絵美は膝を抱えると、うううと唸って膝に頭をすりつけた。
無理して履いたスカートの裾を自分で捲ってみると、つややかな淡いピンクの下着から伸びる自分の脚が目に映る。
「太い…よね、どう見ても」
脚を見られたくないからといって、「電気消して」なんていう台詞ももちろん言ったことがない。
それどころか、ドラマでよく見るそんな台詞を本当に言う女の人がいるのかどうかさえ、定かではない。
「もうダメだぁ…」
絵美はテーブルに頭をごつんとぶつけると、頭を抱えて呟いた。