トルコの蕾
「…驚いた?わたしも最初は驚いたわ。亡くなった奥さんとは別の人との間に、娘がいると聞いた時はね」
太一の母親はそう言って、真希に向かって微笑んだ。
「わたしも主人を亡くしていたの。太一の父親をね。…あなたのお父さんは自分のせいで奥さんと子どもを亡くして…あなたのお母さんには何度も結婚を迫ったそうよ。だけどあなたのお母さんは、断固として聞き入れなかった。彼は罪悪感と孤独感で、もうボロボロだったの。あたしはそんな彼を放っておけなかった」
「…それで、再婚を…?」
「ええ。彼はあなたのお母さんのようにひとりぼっちで罪を背負って…、今にも死んでしまいそうに見えたわ…。太一はまだ小さかったし、わたしは何より太一の父親が欲しかったから、私が彼に頼み込むかたちでね」
「…そんな…」
真希は言葉を失った。
自分の実の父親であり、太一の育ての父となった、孤独で不器用で不幸な男。
それが、いま目の前にいる彼なのだ。
「彼はずっと、前の奥さんのお墓参りを欠かさなかったわ。あなたのお母さんが亡くなってからは、あなたのお母さんのお墓参りもね」