トルコの蕾




「…再婚…?」



真希はベッドの上の、もはや話すことのできない父親に目を向けた。



「あなたのお母さんと、主人が付き合っていたのはね、わたしの前の奥さんの時なのよ」



「前の…」



真希は呆然とした。



「その前の奥さんとは…どうなったんですか…?」



恐る恐る尋ねる。どこまでが本当で、何を信じれば良いのかわからない。



前の妻とは別れたのに、どうして自分の母親は、父親と結婚することができなかったのだろうか。



「前の奥さんは、自殺したそうよ。子どもを道連れにしてね…。それに罪悪感を感じたあなたのお母さんは、すぐに彼から離れたと聞いたわ」



太一の母親はそう言って、悲しそうに夫を見た。



「そして、あなたのお母さんは彼に内緒であなたを産んだそうよ。…たったひとりで」



真希は自分の産まれた理由が、ようやく少しだけわかったような気がした。




自分の名前に父の名前の文字が使われている理由も。




母は死んだ奥さんと子どもに詫びようとしていたのかもしれない。




償いきれない罪を犯した罰として、愛する父に、二度と会わないことと引き換えに。





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