トルコの蕾





「あ、いえ…」



絵美は耳まで真っ赤になって俯いている。



「いるならバレンタインに花なんか売ってる場合じゃないじゃない」



真希は言った。



「好きな人にチョコレート、渡さないの?」



「あ…あの実は用意してあるんですけど…、会う約束とかはしてなくて…」



真希は思わず片付けの手を止め、呆れたような顔で「ええっ?」と言った。



「もう何やってんの絵美ちゃん。中学生じゃないんだから」



真希はため息をついた。

渡すあてのないチョコレートを用意するなんて、なんて真っ白なんだろう。



「片付けはいいから、早く帰ってチョコレート渡しに行きなさいよ」



「…店長…でも…」



「これは店長命令です」



真希は言った。目の前の子羊は無理矢理けしかけない限りせっかくのチョコレートを無駄にしてしまうに違いない。



「つべこべ言わずにとっとと行く!渡せなくて後悔したって遅いんだからねっ!」



「は…はいっ」



絵美は驚きながらも決心したように頷いた。



「…頑張ってみます」



「そうそうその意気!がんばれ絵美ちゃん!」



ガッツポーズをしてみせた真希と、絵美は顔を見合わせて、ふふっと笑った。



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