トルコの蕾
もわっと暖房の効いた電車の車内には、絵美を除けばカップルばかりがのっていた。
明日が土曜日だということもあってかどのカップルも寄り添って幸せそうだ。
絵美はぐるぐる巻きにしていたマフラーをほどいて右腕にかける。
向かっているのは絵美が通っていた大学の近くにある小さなバーで、お昼はランチ営業もしている学生の溜まり場だ。
絵美は学生時代、その店に毎日のようにランチを食べに通った。
アルバイト代のほとんどを注ぎ込んでまで毎日ランチを食べたのも、彼に会いたい一心だった。
絵美が惹かれたのは学生の誰もが騒ぐほど美しい顔立ちの、ウエイトレスの彼ではなく、がっちりとした身体に白いシャツを着こなして、真っ白なシャツをひとつも汚すことなく厨房でフライパンを振る彼だった。
芸術的なまでに美味しそうに仕上がったパスタを皿に盛り付けるたびに彼が見せる、満足げな表情が絵美は大好きだった。