トルコの蕾




真希は黒のエプロンをつけた制服姿のまま、近くにある文具店に向かってゆっくりと歩いていた。



気を利かせて店を出てきたものの、何か買うものはあっただろうかと考えていると、ふと可愛らしいカフェが目についた。
店の前には丸太で作られたプランターがあり、ライムグリーンのポトスや斑入りのアイビーが、ゴールドクレストとともに寄せ植えされている。




「…ちょっと休憩でもするかな」



真希は新しくオープンしたらしいその店に、時間潰しに少し立ち寄ってみることにした。



近くまで行くと透明の扉が自動で開き、甘いメープルの香りとコーヒーの良い香りが広がる。



店内には、テーブルでノートパソコンを開く男性客がひとりと、夫婦らしい男女が一組、仲良さげに向かい合って座っていた。

夫のほうはコーヒー、妻は紅茶を飲んでいる。
いかにも温厚そうな雰囲気の夫はがっちりとした体つきで、休憩中か何かなのかなぜかスーツ姿だった。

妻のほうはすれ違う人のほとんどが振り返るような品のある美人で、よく見ると妻のお腹は大きく前にせり出している。どうやら妊娠中らしい。



真希は大きく膨らんだお腹を見て、ぎゅっと胸が締め付けられる気持ちがした。



武の子どもはもう産まれたのだろうか。



あれ以来、武とは一度も連絡をとっていない。



正確に言うとあれからすぐ、携帯の番号もアドレスもすべて変更して、武とは連絡が取れないようにしてしまっていた。



そうまでしないととてもじゃないけれど、武からの連絡を無視する自信なんてなかったのだ。




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