トルコの蕾
「あ、カフェラテとスコーンをお願いします」
斜め向かいに腰掛けた、全身黒の見慣れない服装をした女が言った。
細身で手足が長く、美人だが少し気が強そうな雰囲気があまり好みではないなとコーヒーをすすりながら猛は思った。
やはりこの女に勝る女はそういない。
猛は自分の向かいに腰掛ける麻里子の品のある整った顔立ちと、保護本能を刺激する柔らかそうな女性らしい体のライン、美しい白い肌をまじまじと眺めながら心の中で呟いた。
「あ、あれはきっとお花屋さんね」
自分の視線の先に気付いた麻里子が小声で嬉しそうに言った。
「あの黒い服の女?」
猛がたずねると、麻里子は人差し指を立てて「シッ、大きな声で言っちゃダメ」と形の良い唇を動かした。
「腰にハサミやナイフを入れるケースを付けているでしょ?それにエプロンに緑色の染みがある」
麻里子は少しだけ得意げにそう言った。
「本当だ。なるほど」
猛はそう言われてから見ると花屋にしか見えないな、と小声で言った。
麻里子は「でしょ?」と言い、お腹をさすりながら優しく微笑んだ。
「もう産まれるんだな、俺たちの子」
猛は幸せそうに腕組みをして言った。
こういう愛の形だってある。麻里子がそれを望むなら、と猛は自分に言い聞かせた。