みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
ここで泣いてみたって事実は塗り替えられない。――あれは同意の上なのだから。
シャワーを浴びながら私は、自身の中に根づいているそんな冷静さに笑った。
情事後に裸の2人が眠るベッドには、空虚感しか残っていないと改めて感じた。
ベッドにほのかに残る汗と体液の匂いや、隣にずっと居た男の存在にしても。
今後セックスを重ねていくごとに、それを嫌でも味わうことを示していたから。
ただ欲のために肌を重ねるのならば私の性格上、割り切ることも訳ないだろう。
――でも私は、そばに居たいわけじゃない。秘書以上にあの男に近づきたくなかった。
知らなければ良かったことは山ほどあった。それに反して、心の中に芽生えた小さな欲深さ。
だから嫌だと言っていても、決して現実に背きはしない。逃げたい、と思えない自分が存在する限り……。
のんびりとシャワーを浴び終えた私は、バスローブ姿でベッドへ向かった。
大きなベッドで上半身を起こし、iPadでメール・チェック中の彼と目が合って一礼する。
「社長、お時間です」
「ああ、分かった」
iPadをオフにした彼がベッドを降りる。目の前で止まると、私の髪をひと掬いして唇を寄せた。
「髪、早く乾かせよ?」
そう言って、挨拶代わりのように唇にも柔らかい唇がリップノイズを立て触れた。
いとも簡単にコッチの動揺を浚った彼は、そのままバスルームへ消えてしまう。