みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
急いで鏡面に向かえば、うっすら残るオンナの顔をした自分に嫌気がさす。
こんなところで辟易していては、先が思いやられるだろう。……いや、すでに問題山積だ。
湿り気ある髪をブラシで梳かし、ドライヤーで乾かしていく。さっきの鼓動の変化ですら苛立たしい事実。
それでも洗いざらしの髪さえも凶器になるのか、と嘆息する外なかった。
* * *
その後――気まずさと様々な疲労感を携えての出張も終わり、無事に社へ到着。
エレベーターを先に降りて社長と別れると、ダッシュで駆け込んだ先は更衣室だ。
お役ごめんの出張用バッグをロッカーへ押し込む。さらに取り出した手鏡に映る地味な姿に安堵した。
こうして私は表情を切り替えると、完全な秘書の間宮の姿で秘書課へ滑り込んだ。
まだ出社時間には幾分早い。それを物語るように、課内はひとりの気難しい男ひとりだけ。
予想通りの光景の中、私は静かにそこへ近づく。その彼は今日もPCをしながら視線のみを上げた。
「チーフ、おはようございます。ただいま戻りました」
「ああ、お疲れ。やけに早いな」
「ラッシュ時に一度帰宅するより、このまま出社させて頂く方が効率的ですから」
にこやかに返すその裏で、後付けにすぎない理由にひっそり自嘲するばかりだ。
実際は東京へ戻る車中で社長に何度も自宅まで送る、と申し出を受けていた。