みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
「ええ」と、素っ気なく頷いた。もはや、愛想すら不要に思えてしまうのだ。
「それは残念」
そこでひとまずグラスを置き、にこにこと表面上の笑みを浮かべた男を見る。
「本日のお昼過ぎ、弊社に私宛でお花が届きました。
お礼を申し上げます。あくまで社交辞令ですが」
「気に入った?」
「……お花に詳しいのですね」
「あれは大切な花だからね。俺にとっても」
飄々と言ってのける顔を前に、ふつふつと怒りが沸いてくる。……一緒にしないで欲しい。
「――そもそも、勝負を仕掛けたのは貴方です。
客観的に見て、一連の行動はフェアではありませんね。違いますか?」
先に無礼を働いたのはそちらだと、無表情で非難する。これだけは非難する覚悟で来たのだから。
ただ唯一の救いといえば今日、社長が単独で大阪支社長の元を尋ねていたこと。
もし花束が届いた時に彼が居合わせていれば、……最悪の事態に陥っていた可能性もある。
何よりそんなことで知られることになっていたら、と思うとぞっとしてしまう。
「そう?じゃあ弱みの隙間を突くのは、経営者のクセかな」
「それは経営者ではなく、人格の問題では?」
「なるほどね。一理あるかも」
あからさまな嫌味にも一切怯むことのない彼に業を煮やし、つい睨んでしまう。
「でもね、桔梗が好きなのは事実だよ?……いや、愛してたの方が正しいね」
グラスを置いて放たれたそのひと言で、ゴクリと息を呑んだ。