みだりな逢瀬-お仕事の刹那-
こんなオトコの安い女になり下がったことがひどく悔しくて、目を逸らして歯を食いしばる。
「どうしたの?黙りこんで」と、対峙する彼はそんな私を嘲笑うように尋ね、首筋を指でツーっとなぞった。
すっかり神経過敏になっている現在。ビクッと、小さく身体が跳ねて口惜しい――しかし、黙っているのは私の意に反する。
「い、い加減に…、」
「メガネ、要るよね?」
だけど、このワン・フレーズを出されれば、あっさり抵抗力は失せていく。
いや、人質ならぬ“物質”が、薄墨色の眼にあっさり捕らわれる原因だろう…?
チッと舌打ちをした私は、おもむろに情事のアトが著しいベッドへヒールを履いた足を投げ出して座った。
タイトスカートで足を組みながら両手はベッドへついて、ムカつく男から顔を逸らす。
「早く返してくれません?それ、私の財産なんですけど」
ワン・オクターブ低い声で紡げば、社内で評判のおしとやかさは呆気なく滑落。
「これが財産って?たかが知れてるよ?」
「金額でしか価値を見い出せないなんて、可哀想ね」
さらに社長を睨みつけた――それほどあのメガネは、大切なものだったのだ。
「やっぱり本性そっち?――でも、俺の勝ちでしょ?」
「本当にアナタ、性格歪んでるわ」
「朱祢が言うの?」
だから私は、くすりと笑ってソレを内ポケットへ再び沈めたオトコを軽蔑する外ない。
――何も覚えていない、と知らせる態度に。胸の痛みと苛立ちを同時に覚えながら…。