LOVELY☆ドロップ
「送ってくださってありがとうございました」
何の感情もないその声の主は本当に昨日の彼女のものだろうか。
そう思えるほど、礼を言う声には抑揚(ヨクヨウ)や活気すらもなかった。
美樹ちゃんはロックをはずし、ドアに取り付けられている内側のハンドルを引く。
そしてそのまま振り返りもせず、ドアを閉めて出て行ってしまった。
彼女のそんな後ろ姿は、どこか縮こまって見えた。
まるで自分がゆく道は絶望だと、そう言っているような心細そうな後ろ姿だった。
「パパいいの? おねいちゃん、いっちゃうよ?」
ぼくが彼女の後ろ姿をじっと見つめていたからだろう。
祈がこれでいいのかと確認をとってきた。
――ああ、別にかまわない。
むしろこの方がいい。
祈とぼくにとってこれが最善の策なんだ。
祈にそう言おうと口を開けると、口内は水分を失っていたらしい。
喉の奥がひりひりした。
ぼくはゴクリと唾を飲み込み、もう一度口を開ける。
「……ああ、これでいいんだよ」
自分に向けた言葉をそのまま祈に告げる声はとても掠れていた。
そしてもう一度、これでいいのだと自分に言い聞かせる。
彼女とはこれで永遠に会わない。
それが正しい選択だとぼくの頭の中はそう言うのに、心のどこかではなぜか彼女を追いかけろと訴えてくる。
だから自然とぼくの目は去っていく彼女の後ろ姿を追ってしまっていた。