LOVELY☆ドロップ
彼女と離れたくはないと思う自分がいるなんて、ぼくって奴はこんなに優柔不断だっただろうか。
自分が決断したことをいつまでもウジウジと考えているなんて、今までこんなことはなかったはずだ。
それなのに、ぼくが何度彼女とは住む世界が違うのだと言い聞かせても心臓は大きく鼓動を繰り返し、彼女を追えとそう告げてくる。
ぼくは自分を鎮(シズ)めるため、目を閉じて視界から彼女を消した。
そうしてぼくの心臓が少しずつ元に戻り始めたころ、静かに息を吐きながら閉じた目を開ける。
すると、去っていく美樹ちゃんの次にぼくの視界へと入ってきたのは助手席にいる祈だった。
祈は、短い眉間に深い皺(シワ)を寄せ、喉の奥から唸り声を上げていた。
その声はまるでジャングルに住むライオンか豹(ヒョウ)のような猛獣だ。
「…………パパ?」
への字になっている口がぼくを呼ぶ。
彼女の目尻はとてもつり上がっていた。
「パパのおくびょうもの!!」
車のエンジン音だけが聞こえる車内で、祈の怒鳴る声が響いた。
「なんだって?」
ぼくは眉間に皺を寄せ、今や怒りの形相をしている祈と向かい合う。
ぼくは祈のことを考えて行動しているんだ。
感謝こそされても臆病者呼ばわりされるいわれはない。
祈はまだ子供だからわからないだけだ。
大きくなったらぼくの判断が正しかったとわかるようになる。
ぼくの、これこそが『まともな大人』としての考え方だったことを――。
そう思うのに、なぜだろう。