LOVELY☆ドロップ
――ああ、紅色のふっくらとした彼女の唇を奪いたい。
彼女と唇を重ねれば、いったいどんな香りがするのだろうか。
感触はどんなだろう。
おそらく、ベルベットのように柔らかで蜂蜜のようにしっとりとした甘さだ。
沙良を失ってからの5年間、眠ったままだったぼくの欲望が一気にあふれてくるのを感じた。
その一方では自分自身でも生まれ出たこの感情に頭打ちをくらう。
「パパ?」
戸惑いを隠せない中、祈はそんなぼくに声をかけてきた。
おかげでどこか異世界へと旅立ちそうになった意識が現実に呼び戻される。
ああ、そうだ。
今はそんなことを考えている場合じゃない。
自分を取り戻し、再び彼女の姿を眼に入れると、そこには彼女の青ざめた表情が見えた。
体が弱い沙良にしていたように、彼女の額にそっと手をかざせば……。
――ああ、たいへんだ。
額が熱い。
熱がある。
触れただけでもすぐにわかるくらいだ。
おそらく37度は軽くあるだろう。
これは救急車を呼ぶべきだ。
だが、生憎(アイニク)今ぼくの手元には携帯というものを持ち合わせてはいない。
なんたって今日、ぼくは休みをもらった。
休日まで急な仕事に追われたくはない。
そう思い、家に置いてきたんだ。
まさか、それが裏目に出るとは思いもしなかった。