LOVELY☆ドロップ
フライパンにオリーブ油を入れ、火を点けて角切りにした具材を炒める中、ぼくも寝室で疲労を隠せない女性の姿を思い浮かべた。
ぼくの頭の中がそんな状態であっても料理はできるものだ。
黙々と手を動かし、ベースとなるトマトケチャップとソースを少し加え、最後に切ったトマトをフライパンに入れて塩コショウで味を整える。
ミートソースが入ったフライパンの火を止め、今度は隣のコンロに移る。
そこにはすでに両手鍋に入れた水が沸騰(フットウ)していた。
その中にパスタをまばらに入れていく……。
5年もの主夫歴がすっかり板についていた。
さて、じきにパスタも茹(ユ)で上がるだろう。
食事の用意を済ませたぼくは散らかったシンクの中を片づけようと意気込んだその時だった。
「あ、おねいちゃんだ!!」
祈の明るい声が台所中に響いた。
どうやら寝室で眠っていた彼女が起きたようだ。
「体調はどう? お腹はすいてる? 君は熱があったし、消化にいいものにしようか。今からつくるから少し待って……」
彼女がいる中、まさか彼女抜きで自分たちだけ食事をするのはいくらなんでも気が引ける。
後ろを振り向きざま声をかけると、そこには祈が言うとおり彼女が立っていた。
ぼくの言葉が途切れたのは、彼女が生前、沙良が着ていたワンピースを見事に着こなしていたからだ。
乾いた茶色い髪はたまご型の輪郭を伝って流れるようにふんわりと肩にかかり、澄んだ大きな瞳を桃色のワンピースが際立たせている。