短編集~The Lovers WITHOUT Love Words~


――なんて非科学的な根拠なんだろう。

自分らしくもないこの選択に、恵一は半ば自嘲気味に笑った。
電車がレールをなぞる音にかき消されるから、彼が発した声は誰にも聞こえないはずだ。

長いトンネルを抜け突然差し込む日の光。
その光の先に、見慣れた風景が見えてきた。

田畑を裾野にこんもりと生い茂る丘が、まるで大海原の小島のように見える。
その丘に佇む、飾り気のない白い建物。
周囲よりも一段と濃い緑の森に覆われて、その白さは遠目からでもよく目を引いた。

空気に潮の香りが混じったような気がしたが、それはその丘の向こうに海が広がっていることを知っている恵一の、完全な気のせいだろう。ここはまだ電車の中なのだから。

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