911の恋迷路

 荒々しい声に応える声は、低い声だからか、ハッキリ聞き取られない。

 

 「お前は、そういえば昔から手癖(テクセ)が悪いんだよな。
  おふくろが言っていたよ」

 甲高いほうの声は、興奮に任せてドンドン大きくなる。

 


 (稔さんが、慎さんを責めているんだ)

 果歩は心配になる。

 「毒虫」と呼ばれて嫌われている慎が哀れだった。

 

 (それにしても、『手癖が悪い』とは、何のことだろう?)
 
 
 果歩が耐えかねて立ち上がる。

 「オイ、どこへ行くつもりだ。よその家の事だぞ」

 健が果歩を留める。

 

 (でも……)

 争いは収まりそうにない。
 立ち上がり、やはり果歩が声の方へ行こうとした時だった。


 


 陵が茶碗を持って立ち上がった。


 果歩と健を無視してスタスタと歩いていく。

 
 「あ」

 果歩は陵の後を追う。

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