911の恋迷路
「稔さん」
続けて果歩は先日の訪問で気づいたことを告げた。
「いつも、家には稔さんか、
お母さんが陵くんに付き添われているんですか」
「……はい」
少しためらいながら肯定した稔だった。
付き添いが負担になることも多いだろう。
「あたしも、時々そちらに伺って、
お手伝いできることがあれば、したいのですが」
果歩には今の陵の様子をもっと見てみたいという気持ちがある。
なにか力になれたらよいとも思う。
「果歩さん、ありがとうございます」
稔は「でも」と言葉を繋げた。
「兄は、メールに『さよなら』と書き記していました。
それに、昔の兄ではありません」
病とは残酷なものですね。
稔の言葉には重みがあった。
軽々しく関わらないでほしい。
そんな稔の言葉に果歩は背筋が伸びる気がする。
「果歩さんのことを兄は覚えていないし、今後も思い出さないでしょう」
「それでもいいです」
それは諦めようと果歩は思っていた。
忘れてくれていい、とまで。
陵への想いが風化した証のようで、罪悪感にかられるが。