911の恋迷路

 「お待たせしました」

 店のドアが開いて足早に飛び込んできたのは、

 黒いコートを着た稔だった。


 「今晩は」

 挨拶をかわす稔と慎は目を合わそうとしない。

 

 「出がけに思い出した事があって、急いで取りに戻ったんですよ」

 言い訳を言いながら、コートのポケットから稔が小さな箱を出す。


 荒い息の中、稔が差し出した箱を
 
 果歩が受け取った。


 中は紺色の宝石箱だ。


 「兄がアメリカであなたに買ってきたものです」

 (りょうくんが、これを?)

 開けるのがためらわれた。
 
 それでも稔に急かされて、果歩は紺色のケースを開ける。

 静かにケースに収まって、

 店のオレンジ色のライトの中、銀色の指輪が光る。

 

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