911の恋迷路

 でもこの指輪にはペアとなる指輪がない。

 
 それに、気になるのは『To K』の後を消したような、引っ掻き傷。

 

 果歩は無言で指輪を掌に載せて見つめていた。

 ひとりぼっちになった指輪。

 (あたしの指にはまる予定だったんだろうか……?)

 
 見つめているうちに指輪がぼやけて形を失くしていく。

 


 そのときだった。

 今まで静かに果歩の様子を伺っていた慎が、
 果歩の掌から指輪を取った。

 そうして宝石箱と共に稔に押し返した。

 
 「稔、お前、気づけよ」


 今まで見たことのない険しく鋭い慎の表情。

 稔は少しひるんだが、

 
 「お前の物じゃないだろ。これは、果歩さんに渡した物だ」

 そう言って果歩の前のテーブルに置く。

 
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