911の恋迷路

 

 カチャン。

 
 小さな指輪が回る音がして、

 それと同時に果歩の右手が慎の左手に収まっていた。

 「無神経だよ。
  それは陵が、兄さんが果歩さんに

  渡すのを諦めた指輪かもしれないのに」

 

 稔は指輪に視線を落とす。

 「出よう」



 果歩は慎の左手に引っ張られて店を出る。

 紺のトレンチコートをはおる暇もなかった。
 片手を塞がれているので、コートとバッグを空いた左手に持つ。


 ふたりは冷えた晩秋の夜空の下、手をつないで足早に歩いた。


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