スピリット・オヴ・サマー
 じゃき、じゃき、じゃきと自動販売機に硬貨が吸い込まれ、軽く唸ってから、ごとり、と缶が落ちてくる。
「恨んでたと、思ってた。」
 憲治は聖菜にサイダーを差し出した。聖菜は、いただきます、と、それを受け取りながら、
「ほんの少し、ちょっとの間だけ、そんな時もありました」。
 聖菜に背を向けていた憲治は、聖菜の言葉に微かに震えながら、再び硬貨を自動販売機に詰め込んだ。

 聖菜と並んで日陰の下、広域農道を走る陸上部の一団を見送って、憲治は静かに角度を変えていく太陽の傾きに身を任せながら、心地よい沈黙を味わっていた。
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