スピリット・オヴ・サマー
 不思議な気分だった。
 作家になりたい、などと唐突に言われたら、今までの憲治なら、まづは鼻先で笑い飛ばし、それから相手が、この人に言わなければ良かったと思うような言葉を投げつけただろう。
 だが、今の憲治には聖菜の描く夢が愛しく思える。相手が聖菜だから、というのだけではなかった。自分も「夢見たがり」の一人でしかなかったことを、この北中の校舎に教えられたからだ。
「いいね。夢、ね。」
「先輩は、夢、ないんですか。」
 聖菜の問いに憲治はふと、空を仰いだ。
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