森林浴―或る弟の手記―
私は幸乃に帰ると告げ、田町に走りだしました。
佐保里姉さんに会えるかもしれない。
その期待だけが私を走らせました。
私の大切な姉。
優しかった姉。
会えない時間は、私の中から、佐保里姉さんの奇行を全て奪いさっていました。
時間の経過は、幼い記憶を美化していたのです。
田町遊郭へは、米兵の列が出来ていました。
客として行くには私には所持金がありませんでした。
私は取り敢えず塀の中に入りました。
そこは外とは違う空気が漂っていました。
何というのでしょうか。
本当に独特な空気だったのです。
当たり前ですが、私は売春街に足を踏み入れるのも、売春婦を見るのも初めてでした。
いえ、嘉子さんも元々は売春婦なのですが、彼女はそんな雰囲気を持ち合わせてはいませんでした。
街の中を歩く女性は、全員同じような顔をしていました。