森林浴―或る弟の手記―




店の前に着くと、男は「紫乃っ」と大声で叫びました。


「寝てねぇで早く起きてこねぇか」


男の声に苛立ちが募ります。


時が時なら、姫として扱われてきた華族の子女である佐保里姉さん。


それが、こんなふうに、汚い男に乱暴な口をきかれる。


時が時なら、このような男は佐保里姉さんの顔を拝むことすら出来ないのです。


きし、きし、という音が耳に届いてくると、私の苛立ちは消え、再び鼓動は速くなりました。


「早くしねぇか」


男がまた怒鳴りました。


「すいません。頭が痛くて……」


そう聞こえた声は佐保里姉さんのものでした。



< 67 / 201 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop