森林浴―或る弟の手記―
店の前に着くと、男は「紫乃っ」と大声で叫びました。
「寝てねぇで早く起きてこねぇか」
男の声に苛立ちが募ります。
時が時なら、姫として扱われてきた華族の子女である佐保里姉さん。
それが、こんなふうに、汚い男に乱暴な口をきかれる。
時が時なら、このような男は佐保里姉さんの顔を拝むことすら出来ないのです。
きし、きし、という音が耳に届いてくると、私の苛立ちは消え、再び鼓動は速くなりました。
「早くしねぇか」
男がまた怒鳴りました。
「すいません。頭が痛くて……」
そう聞こえた声は佐保里姉さんのものでした。