愛が逃げた部屋


「バカらしい…」


自ら考えたことだがあまりに気持ちが悪い考えだ。バカらしい、ともう一度口を動かす。



幾ら昔を望んだって今はもう浩輔の妻。


だが真由美はその浩輔の妻という肩書きが息苦しくって仕方がない。



恋人なら気が楽だ。浩輔以外の男性と食事をしたぐらいで罪悪感の欠片も感じない。


夫婦となると話は違う。食事どころか家に招いただけで罪悪感を感じる。


それはきっと真由美自身に下心があるからだろう。



結婚してから真由美の世界は狭まった。小さなマンション。その中の浩輔と寝るこの部屋が今の真由美の世界なのだ。




嗚呼…息苦しい、



鉛のように重い足を引き摺り、真由美は自分の世界へと戻っていった。





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