不機嫌に最愛



「そんな葛藤、客の私には関係ないですから。梓希(シキ)先輩気にしてたら、仕事進まないですよ?」

「……あの。萌楓(モカ)さんの辛口コメントにも、射殺されそうな視線にも堪えられないんで、……担当交代します!!」

「はぁっ!!?」



振り返った時には、美容師さんはピューッと早足で消えていたあとだった。


担当交代って、一体誰とするつもり?

………………。

一瞬過った考えに、いやいやまさか、と誤魔化すように首を振る。

私の重度の“梓希先輩大好き病”は、今日でもう終わりにするって決めたの。

だから、梓希先輩にしか切られたことのない髪をバッサリ切って、この気持ちごと切り捨てる。



「担当交代しました、望月です」



……って、やっぱり来た。

人がせっかく前に踏み出そうとしてるのに。



「……梓希先輩が担当なら、帰ります」



鏡越しに見上げる視線は強気そのものな私に対し、鏡の中の人物は絶対零度かというくらいに冷たい眼差し。




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