【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「クソったれがっ!」
そんな優花を背に庇うように晃一郎がが低く言い捨て、スッと一歩、足を進める。
「生徒の中に紛れているとは思ったが、よりにもよって村瀬を使うとはな……。グリードの専売特許が、悪辣と卑怯と愚劣だってのを、忘れてたぜ」
「あら、何のことかしら? アタシは、御堂に拉致られた優花が心配で、追いかけてきただけよ? だめじゃない、ちゃんと家の送り届けなくちゃ。仁王様にチクっちゃうわよ?」
クスクスと笑うその声も口調も、玲子のものには違いないのに、その瞳は暗黒に染まっている。
黒い瞳の中央に、スッと弓なりの猫のような赤い虹彩が、禍々しい光を放つ。
異形だった。
その非現実感が、背筋に薄氷を落とす。
「地道に電車とバスを乗り継いで追いかけてきたってか? 白々しい嘘は時間の無駄だ、さっさと大人しくその体から出る方が身のためだぞ」
低い声で唸るように言う晃一郎に、玲子は、外人めいた仕草で肩をすくめただけで、無視することにしたらしい。
そして、あくまで優花に鋭い視線を投げつけて、それでも口元は笑んだまま、静かでことさら丁寧な言葉で語りかける。