【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~
「っ……」
ばかっ。
「こんな時に優しくしないでよっ。よけいに泣けてくるじゃないっ!」
「なにか誤解があるな。俺は、女には、いつも優しいぞ?」
ええ、そうでしょうとも。そうでしょうとも。
優花のせいいっぱいの虚勢に、うん? と片眉を上げて、ニヤリと笑うその表情がまるでガキ大将のようで、思わず笑ってしまう。
――ああ、こんな時なのに、なんだか、涙と鼻水でぐしょぐしょだ。
そう、もうタイムアップ。
もうすぐ、晃ちゃんは、元の世界に戻らなければいけない。
今度こそ、本当にさようならだ――。
顔を上げていられず、思わず足元に視線を落とすと、大きな手で頭をグリグリ撫でられた。
思えば、こうして撫でられるのも、そんなに嫌いじゃなかった。
「良く頑張ったな」
静かな優しい声が、心にしみてくる。
――晃ちゃんが居てくれたからだよ。
だから、私は頑張れた――。
想いは言葉にはならず、ただコクリと頷く。