ワイルドで行こう
その時間が来て、琴子は準備を完了させる。
ピンポン。チャイムが鳴ったので、わかってはいるけどインターホンに出てみると矢野さんだった。
キッチンに用意していた『冷たいざるうどん』。それを天ぷら盛りと一緒に盆にのせ、琴子は玄関に出る。
「おー、美味そうだな」
「冷たくしてありますから、温まらないうちにどうぞ」
「おう。頂くわ」
本当に嬉しそうに盆を受け取ってしまう。どうして『食べる』だなんて言い出したのだろうかと、琴子は腑に落ちない。だが、向こうも向こうでなにやら琴子に言いたいことがあったようで、盆をもつと急に言い出した。
「今日はどうした。本当にタキの部屋の掃除だけで、こんなに早く来たのか。ただ昼飯作りの来たのか。平日も如何にもOLのお姉ちゃんって感じの可愛い格好をしてタキが連れてくるのに、今日はそんな格好で」
平日、三好堂印刷まで英児が迎えに来てくれ、その後この龍星轟宅へ。その時、ガレージで一人残業をしている矢野さんに何度か出会ったことがある。その時も無愛想だけれど、プライベートを楽しむ店長の英児がすることには我関せずという素っ気なさだった。
だけど、案外、琴子と付き合う英児の様子を心配しているのでは? そうでなければ、今日だって平日の残業だって、琴子のことそんなに見ていないと思う。しかも。英児は気がつかなかったのに。おじ様には『どうしてこの格好で、日中に訪ねてきたか』を気がつかれている。琴子は驚き絶句する。
「なんだ。店の手伝いまでしたくなったとか言うなよ」
ドッキリ、琴子の心臓が固まる。『図星』だった。
今日、琴子の目的はそれだった。
「タキタの女だって、お手伝いも出来るいい女だって、見られたいのか。誰に。自慢の彼女になりたいか」
今度ばかりは冷めた目つきで言われた。この矢野という男性からは、英児と同じ匂いを感じている琴子。きっとこの人も昔は英児のようにツッパリながら車を乗り回していた狼のような人だっただろうと。だから怖くはないけど、噛みつかれる瞬間というのがうっすらと感知できている。それがきっと『俺達男の世界に、甘い女が踏み込んでくるな』ということ。
それに琴子は改めて思った。英児と付き合いを続けていくには、この矢野さんとの関係は無視できないと。