ワイルドで行こう
だから、琴子も心積もりを整えてきたので、恐れずに言い返す。
「いい彼女に見られたい訳じゃなくて、ただ、私も車に触ってみたいだけ」
「不純だなあ」
殊勝な心がけに聞こえてしまったかもしれない。だから『良い子に見られたいための、良い子ぶった回答、とどのつまり不純だな』と言われている。でも、構わない。琴子もそれぐらいの目で見られることは予測してきた。だから、気持のままを口にする。
「私、初めて走り屋の車に乗ったんです。常にピカピカの車、心臓のエンジンまで大事にされている。その魅力とはなんなのだろうか、と。そんな車のことを知りたかったり触りたくなったり」
「それなら、英児に頼んでみろよ」
「頼みました。『私にもワックスがけを教えて』と。でも。彼が聞くと『そんな女の子がやらなくていいから』と、笑って流しちゃって」
矢野さんは一時黙って、ふっと悟りきったように鼻で笑う。
「適当に笑って流しておいて、本当は誰にも触って欲しくないという気持もあるかもな」
意地悪な言い方だと思った。車好きの男が『彼女にも触って欲しくない大事なもの』と言う意味をほのめかしているのだから。
「そうですね。それが本心なら。諦めます」
流石の琴子もぶすっとして答えてしまった。別に車と張り合いたい訳じゃないし、車を知って彼にますます愛されたい訳じゃない。ただ、琴子は……。いや、もうやめておこうと思う。
「邪心でしたね。失礼致しました。麺がのびます。早く召し上がってください」
玄関先で一礼をし、これにて撤退。琴子の意気込みも玉砕したようなので、今から本当にのんびり掃除をすることにする。
そう思ったのだけれど。
「じゃあさ。俺と試してみるか」
矢野さんが、ニヤリと笑った。
試すってなに? 琴子は首を傾げた。