ワイルドで行こう
目を覆って、バンパー下までへなへなとしゃがみ込んでしまった。まさにガタガタ崩れていくように。作業着姿の英児が、ヤンキー座りで項垂れる。
「よりによって、矢野じいと右半分左半分でやったのかよ」
半分はほんとうにワックスなんて塗ったのかという程、ピカピカで。半分はワックスがけやったんだなとわかるほど筋が残って光っていた。
「わかりやすいだろー。見ろ、このルーフでもちゃんと鱗塗りの悪い例もみせてやったんだ」
どこか面白がっているにやり顔の矢野さんが、最初に円を描いて塗ったところを見せた。それを矢野さんが綺麗に仕上げたところ、琴子がやって鱗が出来ているところを見て、また英児が目を覆う。
「……あのなあ、もっと目立たないところでやれよ。暫く乗れないじゃないかよっ」
「これが新人ってやつよ。これを出来るようにする手間も時間も必要だし、客に迷惑をかけない方法も考えなくてはならない。お前もな、可愛い彼女がやったからまだ許せるだろうが、それでも嫌だろ。その気持ち、これから慣れて行かなくてはいけないからな」
新人がどんなものか。どうすればよいか。それを琴子を使って矢野さんは英児に実感させたようだった。
「あの、英児さん。やっぱり私……」
出過ぎた真似をしてごめんなさい。そう言おうと思ったのに。
「もうこれはこれでいいや。はあ、参った」
そう言って、がっくりと肩を落として行ってしまった。事務所に去っていく彼。
「やっぱり私、謝ってきます」
彼を追いかけようとしたが、矢野さんに止められる。
「まあ、待てよ」
矢野さんが顎で、事務所にいる英児を見ろと促した。その英児が。矢野さんが勝手に触ったキーをぶら下げているボードに立っていた。そのまま事務所から出てきた英児はまたガレージへと行ってしまう。矢野さんに止められているが、琴子はやっぱりハラハラしている。『彼女だから』という傲りで大事な愛車に乗れない状況にさせたと怒っているのだろうか……。