ワイルドで行こう

 だが英児が入ったガレージは整備ピットではなく、車庫の方。そこからまたエンジン音。ギュンっと出てきた銀色の車がこちらに向かってきて琴子は驚く。
 バンと運転席のドアを閉め、英児が出てきた。
「次はこれでいいよな、親父」
「だな。最初だから黒なら分かり易いと思って使ったけどよ、次は薄い色でやらせてみるわ」
 二人の会話に琴子はびっくり――。
「琴子はどう。もう一台、やる気あるか」
 英児に聞かれる。その顔が、いつも琴子に可愛い可愛いと抱きついてくる恋人ではなかった。店長の顔。
「あります。このままじゃ、悔しいもの。私だって毎日、このスカイラインに乗せてもらってすごく愛着があるんだから」
「そっか。それならゼットも頼んでいいな」
 琴子はつい、笑顔で英児に言ってしまう。
「嬉しい。だって私、この車に乗って宇宙飛行士になったみたいにとっても興奮したんだもの。あんなの初めてだったの。私、この子も頑張って磨くから!」
 そして。あの月夜、私と英児を甘く熱い世界に連れて行ってくれたシャトルみたいな車!
 そんな琴子を見て、矢野さんがなんだか嬉しそうに英児の背中をばんばん叩いていた。
 英児も、どこか照れて。今度は笑ってくれている。
「じゃあ、よろしくな。琴子」
 
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