ワイルドで行こう
今度は矢野さんが横について、あれこれ口うるさくいちいち指示をして教えてくれた。だが琴子も黙って従う。
そして最後に出来たゼットを矢野さんとボンネットから眺めた。
銀色のボディだから、日光に反射しても黒いスカイラインほど塗りムラは目立たなかった。それでもまだある。
「いや、でも、さっきよりマシになったな」
矢野さんがいちいち『こうだ、ああだ。そうじゃない、こうやれ』と教えてくれたとおりにやったからだった。
「よし、店長に見てもらおう」
今度は事務所の社長デスクでノートパソコンを眺めている英児を呼びに行く矢野さん。琴子も固唾を呑んで待つ。
そしてやってきた滝田店長が、愛車のフェアレディZをひと眺め。今度は車を一周してあちこち眺めている。
「へえ。教えただけでこんなになるんだ」
「だろ。まあ、姉ちゃんのやる気もあるけどな」
「ふうん、なるほど」
英児は琴子を見ず、ひたすら銀色のボディの仕上がり具合を眺めていた。
「もう一台、持ってくる」
今度は英児が言い出し、矢野さんが驚いた顔。
「おいおい。車屋じゃない姉ちゃんにちょっと試しにやってもらっただけなんだから。もう今日はいいだろ。なあ、姉ちゃんも疲れたよなあ」
勿論、疲れている。慣れない炎天下、全身は汗びっしょりだし、腕はだるくなった。だが英児が琴子をキャップのつばからちらりと見た。その目が、店長でもなく恋人でもなく。なんだか彼にも少し迷いがある目に見えてしまった琴子。なにか考えているのか。