ワイルドで行こう

「いえ、もう一台。頑張ってみます」
 答えると矢野さんはまた驚き、そして英児はすっとガレージに行ってしまった。
「無理すんなよ。英児のやつ、まだやる気あるか厳しく試しただけだと思うんだよ」
「一台目でワックスがけがどのようなものか驚いて、二台目でやっとワックスがけがどのようなものか知ったから。お手軽に覚える彼女としては二台目までということですか?」
 などと返してみると、またまた驚愕の顔に固まってしまった矢野さん。
「ふうん。なんだかなあ。俺もわかってきたわ。英児が姉ちゃんだけ平気でここに連れてきたのが」
「私だけ平気で?」
 ちょっと引っかかた。そして矢野さんが慌てた。
「まあまあ。いい大人だろ。琴子ちゃんもさあ」
 こんな時だけ『ちゃん付け名前』で呼ばれて、琴子はつい矢野さんにむっとした顔を見せてしまう。そうしたら、あの矢野さんがますます慌てたりして……。ちょっと可笑しいから、暫く不機嫌な顔を見せて困らせた。
 それなのに琴子に取り繕うためか、矢野さんがいろいろと教えてくれる。
「まあ、あのさ。出会いがあっても、続かなかったわけよ。英児の方が怖じ気づいちゃってな。それに社長社長と浮かれてたかる女もいたんでね、出会いがあってもかなり慎重だったみたいだぜ。ちょっとだけデートして終わりってやつばっかな。そこんとこは寛大に……」
 そこまで矢野さんが言ったところで、ガレージからまた車が一台出てきた。
「まさか、あれを」
 話していた途中の矢野さんが、呆然とした顔で固まってしまった。目を見開いて固まっている。

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