ワイルドで行こう
英児がその車で再び、琴子の前に。紺色の、また日産車。乗ったことがない車。この前教えてもらったけど、琴子はスカイラインとゼットしか覚えていない。 紺色の車から英児が降りてきた。
「これ。琴子一人にやらせてくれよ」
矢野さんに話しかけるのだが、その矢野さんがまだ車を見て放心状態。
「おい、矢野じい!」
やっと矢野さんがはっと我に返る。
「英児、お前。いいのか」
いいのか――なんて、どういうこと? 琴子も眉をひそめた。しかもあの矢野さんがびっくりするほどのこと?
「ああ。いいよ。琴子の気持がよくわかったから」
そして英児が琴子を見た。
車のルーフをぽんと叩いて、彼がいつもの英児の笑顔で琴子に告げた。
「日産シルビア、5代目 S13。こいつが最初の相棒だよ」
驚いて、琴子も紺色の車を見た。これが彼が走り屋として乗り回していた車?
「けど、その時乗っていた車じゃない。峠で怖いもの知らずで飛ばしていた時、事故って廃車にしちまったんだ。俺な。あの時スゲーこいつと別れるのが悔しくて、」
当時の悔しさが未だに忘れられないのか、彼が唇を噛みしめる。
「それから馬鹿な走りはやめた。安全運転で走りを楽しむ、車を大事にする車屋になるって決めたんだ。これは中古で買い直したヤツ。事故ったトラウマで滅多に乗らない。でも二度と失いたくないから傍に置いてはいるけど触らせない」
日産シルビア。彼の原点、だった。
その車を、琴子に磨かせてくれるという。