ワイルドで行こう
暫く俯いている英児が、何かを言おうとしている。でも、躊躇っているようでやめてしまう。
「なに、どうしたの」
涙を拭う琴子と目が合うと、どこか降参したように英児が笑う。
「だってさ。それが俺のコンプレックスなんだよ」
「……ヤンキーで走り屋だったことが?」
「そう。学歴がなくて薄汚れた車屋だってことが」
また琴子の頭に血が上る!
「どうして! 貴方は立派な経営者だし、車好きの人達だけじゃなくて、いろいろな人たちに信頼されているじゃない。うちのジュニア社長だって、貴方なら私を任せて安心、『いい男だ』と言ってくれているのよ。判断力だってあって、私と母がそれでどれだけ貴方に助けられ……」
「言われたんだよ! 元ヤンみたいな男のくせにって!」
あの眉間に深い皺が刻まれる怖い顔で英児が怒鳴った。琴子も卑下する彼が情けなくて、そうじゃないと安心してほしくて興奮していたが、それを遮る迫力に口をつぐんでしまう。だが暫くして、運転席で項垂れている英児に尋ねる。
「だ、誰に。そんなこと……」
「……千絵里に決まってんだろ。婚約が解消になった時に。元ヤンキーのくせにって言われたんだよ。しかも母ちゃんの目の前で。『そういう育ちだ』って言われたんだよ。母ちゃん後で泣いていたもんな。私が悪かったてさあ」
……言葉を失う。結婚を決意するほど愛した人から、そんな傷を負わされていただなんて。
それでやっとやっと、英児が常々『俺みたいな男でいいのか』と琴子に確かめていたことを思い出した。だから結婚をほのめかされると、とても躊躇っていたことも。やっと分かった気がする!
「琴子だってそうだろ。初めて煙草屋で会った時、俺から走って逃げた」
ドキリと琴子は硬直する。確かにそうだった。一目見た時、嫌悪を持っていた。
「それは……。付き合ったことがなかったし、それまでヤンキーの人て怖いと思っていたから」
「だから。コートを渡した時も、一歩踏み込めなかった。蛍を見に行った夜も電話番号を聞くのが精一杯だった。でもお前から、また誘ってくれると絶対にもう一度会いたいと言ってくれてすげえ舞い上がっていたんだよ」
「そ、そうだったの」
「でも。思った通り、優しくてしっかり者で、生真面目すぎて一生懸命すぎて。だから俺、本当にお前に触りたくて触りたくて」
それで、あの紫陽花の夕……。