ワイルドで行こう
「……私。あの後、自分のことすごく嫌な人間だって思ったことがあるのよ。人を見かけで判断しちゃいけないって。貴方が教えてくれたんだから。貴方、とっても格好良くて素敵で、私も蛍の夜の時、このまま家に送られるだけで終わったらもう二度と会えない、もう一度会いたいと思っていた人と二度と会えなくなるのは嫌だと思って。だから……絶対に次も会いましょうって食事に誘う約束をしたんだから」
え、そうだったのかよ?
英児も驚いた顔。
「そうよ。いままで私が貴方のこと好きって言ったことも、愛しているって言ったことも、信じてくれるなら二度と『俺なんか』と思わないで。そうじゃないと今度は私が怒るからっ」
彼みたいに迫力ある顔で食らいつけないけど。でも琴子も眉間にしわを寄せて英児を睨んでみたのだが――。
まだ雷鳴が止まない豪雨。運転席から英児の手が伸びて、琴子の頬に触れた。
「雨に濡れて冷えているかと思ったけど。熱いんだな、俺が怒らせたからかな」
確かに。濡れて最初は震えていたが、いまは驚きも怒りも泣きたい気持ちもいっぺんに溢れているので、琴子の頬は熱かった。
「怒ってこんなほっぺた真っ赤にして」
大きな手が琴子の頬を撫でながら、そして目の前に、あの笑顔が現れる。あの優しい目尻のしわが寄る、柔らかな……。
「怒っても。可愛いんだもんな、琴子はさ」
笑っているけど。気のせいか、英児の綺麗な黒目が潤んでいるように見えた。その目に見とれていたら……、もう英児に唇を塞がれていた。
冷たい舌先だった。雨に濡れて彼の身体は冷えている。なのに、琴子の身体と唇は熱い……。
「ん……エイジ……」
琴子も彼の黒髪の頭を抱き寄せ、その冷えている唇を暖めるように忙しく愛した。
「熱いんだな、琴子って。ほんとうは……」
徐々に二人の温度が溶けあうのがわかるまで、長く唇を愛し合った。
膝の上では、英児の長い指と琴子の小さな指がきつく絡み合っている。
「貴方を抱きたい」
琴子からいうと、また英児が一瞬、面食らった顔をしたが。すぐにクスリと笑い出す。
「俺なんか。琴子を素っ裸にしたい。今すぐ」
琴子も笑ってしまう。もう、いつもの悪ガキ兄貴に戻ってくれていたから。
「どこか連れて行って」
彼の黒い目を見た。まだ龍星轟に帰るには少し躊躇いがあるから……どこかと言った。それでも英児がどうしても龍星轟というなら、覚悟をして帰ろうと思った。
英児の目が、また――野性的にきらめいた。あのイタズラな兄貴の顔で言った。
「わかった」
すぐに運転席に戻った英児が、再び雨の中、スカイラインを発進させる。