ワイルドで行こう

 熱く繋がるそこにいつもの感覚が蘇る。皮膚と皮膚が琴子の身体の中でひとつに溶けあってくっついてしまうような……。ああ、あの時の。あの夜の続きだと琴子は思った。素肌で繋がっている。しかも今夜は森の中。雨の中。とろけるように英児に愛されているのに、琴子はふと思った。この森の生き物も。雨の夜でも愛し合うのだろうかと。いまの私達のように……。雨の中でも、愛し合いたくなったら。すぐに愛し合うのだろうか。
 車の窓に蕩々と流れる雨が、まるでカーテンのよう。暗闇と、雨と、雷鳴が、こんな動物みたいに愛し合う人間の私達を隠してくれる。そっと愛し合うことを許してくれる。
 あの時、無くしてしまった、止まってしまった時が動き出すかのようだった。
 切り取られてしまったあの瞬間が、いまここに舞い降りてきた。戻ってきた……。
 ――いくぞ。
 あの時の声なのか、いま彼が再び囁いてくれたのかは分からなかった。
 ただ雨の音の中、鬱蒼とした緑と闇に忍んでいる中。ただただ本能で熱愛を身体中で感じている琴子は、自分が『琴子』ではなくて、ただこの男の為に共に傍にいる女なのだと思った。それは唯一無二の『つがい』。彼等と同じ営みで私達もまた身体を繋げて、愛しいものへと継いでいく。その唯一無二の――。
 今夜、堪らなくて爪を立てているのは女の琴子ではなくて、男の指先。琴子の柔らかな尻に指を食い込ませ、力を注ぎ込んでくれて……。
 ……あっ。
 奥に感じた。男が力の限り注いでくれた熱いものを。あの時得るはずだった英児の思いがじんわりと琴子の身体中に広がっていく――。
 絶頂にたどりつき、琴子は途端に力が抜けてしまい果てた英児へと崩れる。彼の方が力尽きているはずなのに、そのままがっしりと抱き留めてくれる。

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