ワイルドで行こう

「タキが言っていたわ。自分が留守の間に琴子が絶対に『お手伝いします』て来ると思うから、頼むなって」
「さすが。もうすぐ『旦那さん』になりそうな男は、もうすぐ『奥さん』になりそうな彼女のやること良くわかっているってことだね、これは」
「えっ、英児さん。そんなこと言っていたの? 私、英児さんに内緒で今日来たのにっ」
「わはは。お似合いってことじゃんかよ。めでたし、めでたし」
「ほんと、ほんと。これで矢野じいの昼飯もめでたし、めでたし」
 『そういうことじゃないだろっ』と矢野さんが武智さんをどついた。でも頬を真っ赤にさせて否定する矢野さんを見て『図星なんだね』という武智さんと一緒に、琴子も笑ってしまった。
 この日も、店長の英児はいなくとも、琴子は以前通りに従業員に食事を作り、さらに事務所のお手伝い。そして久しぶりに車のワックスがけを矢野さんと一緒にやった。
「磨いておくか、琴子」
 最後に。真っ黒なスカイラインを矢野さんが持ってきてくれた。
「はい、是非」
 主のいないスカイラインを、琴子は磨く。明日はゼットを磨きたい。
 いまは、どの車も愛おしい。まるで彼みたいで。


 ―◆・◆・◆・◆・◆―


 青空に吹き抜けていく風がとても爽やかな日曜。厳しい残暑の日射しもだいぶ和らぎ、夏のざわめきが去り風の音しか聞こえなくなった頃。
 琴子は近所にある煙草屋へと歩いていた。
『琴子、ただいま。さっき空港から龍星轟に戻ったんだ。今すぐ行く』
 この日、英児が出張から帰ってきた。母にも『英児さんが挨拶に来るから』と既に伝えてある。母も昨日から英児を出迎える準備でそわそわしていて落ち着きがない。
 琴子もちょっとだけかしこまった秋色のワンピースで待っている。
 そんな英児を待っていたら、琴子の携帯電話に再度の連絡。
『いま、あの煙草屋のところにいるんだ。ちょっと来てくれないか』
 家の前までスカイラインでやってくると思っていたので、琴子は訝しく思いながら家を出た。

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