ワイルドで行こう
「琴子。見送ってやんな」
三好ジュニアの気遣い。
「ですけど。デジ版の色指定チェック……」
琴子が躊躇っている。
「見送りたって数分だろ。お前、トランクの若葉マークをゼットに貼り替えておけよ。滝田君が貼ったまま走ったら、それはそれで面白そうだけどさ」
「そんな、とんでもないです。若葉マークは店長の運転ではなくて、私が乗っている時だとお客さん達に教えておかなくちゃ!」
「だったら。乗ってきたお前がちゃんと貼り直してこいよ」
そう言って三好社長は、躊躇う琴子を上手く英児と共に外に出そうとしている。
それも英児には伝わってきた。二人きりにして、前カレと共に働いていることちゃんと聞いておけ……とか、話しておけ……という気遣いなんだろうなと。
お邪魔いたしましたと、英児は琴子を伴って事務所前の駐車場に向かう。
「本当にごめんなさい。でも、スカイラインの運転も楽しかった」
秋らしい深紅のカットソーに、小花柄の黒いスカートの彼女がにっこりと英児を見上げている。お気に入りの優しく女らしい匂いが、秋晴れのそよ風にのって英児の鼻先をかすめていく。
「スカイラインは、英児さんの匂いが他の車よりずっとずっとするの。一緒に乗っているみたいで、朝から『今日も琴子と一緒にいくぞ』と英児さんが言ってくれているようで、なんだか元気が出るかんじ」
「琴子……」
そんないじらしいこと言われたら、もう直ぐに抱きつきたいところ。だが彼女の職場だから、当然、英児はぐっと堪える。ここが車の中だったり、自宅だったら、もう抱きつくどころか彼女を胸の下に押し倒しているだろう?
それにしても。琴子も英児と同じように、相棒の車の匂いを感じてくれていたなんて……。
「俺も。ゼットに乗って来る途中、車の中がすっかり琴子の匂いになっていて、もったいなくて煙草が吸えなかったんだよ。俺のゼットだったのに、もうすっかり琴子の愛車になっていて、琴子が一緒に乗っているような感覚だった」
「本当に! 同じ感覚、嬉しい」
「うん、俺も」
真っ青な空の昼下がり。ほんの一瞬、英児と琴子の眼差しが熱く交わる。その時、英児の脳裏にはあの月夜。入り江と灯台が見えた部屋で、こんなに生きてきた道が異なる女性と今までにない一体感を得た夜。あの時の熱っぽさが瞬時に蘇ってしまうから、大好きな彼女との視線の交わりだけでも熱愛に囚われてしまう。だから、その指先がついに。彼女の頬に触れていた。
「琴子。いま二人きりじゃないのが残念」
「私も……」
英児には分かる。彼女もきっと同じようにこの眼差しの交わりだけで、裸で抱き合っているような熱愛を感じ取ってくれていると――。