ワイルドで行こう
 幾分かして、彼が母を車に乗せるのが見えた。
 またきちんと介抱して丁寧に後部座席に乗せてくれている。
 そこで、落ち着いた琴子を見て、また彼が戻ってくる。
「もう大丈夫そうだな」
「有り難う、滝田さん」
 神妙な面持ちのまま、そっと首を振る彼。
 そんな彼がおもむろに、デニムパンツのポケットから携帯電話を取り出した。
「赤外線、ちょうだい」
 え。と、また琴子は目が点になる。
「勿論、無理強いはしないけど。困った時、いつでも呼んで。女二人だけだと心許ないこと多いだろ。力仕事とかなんでも。ボディガードだって駆けつけてやるし、足にもなるよ」
 ええ。でもでも。またいつもの琴子らしい迷い。どうしてこの人は、琴子がいつも躊躇うことをこうも簡単に恥じらいもなくすらすらと? でも全然自然だからびっくりしてしまう。
「やっぱ、俺みたいな元ヤンキーバレバレな不良中年オヤジは信用ならないか」
 開いた携帯を、彼がパタリと閉じてしまう。それを見た途端だった。琴子が今度は後先考えずに、慌てて携帯をバッグから出していた。
「いいえ。是非、お願い致します」
 琴子から彼の携帯へと送信をする。着信を確認した彼がやっと笑顔になる。
「大内琴子、コトコさんか」
 笑うと本当に安心感ある暖かい笑顔。怒ると癖なのかヤンキーらしい表情を見せる。そんなギャップ。
 今度は彼から送信、琴子も確認する。
「滝田英児。エイジさん?」
「うん。きっと琴子さんよりオヤジだけど、よろしく」
 琴子は首を傾げる。
「オヤジ、オヤジって……。同じ三十代ですよね」
「え、そうなんだ?」
「三十ニですよ、私。滝田さんでオヤジなら、私、オバサンになっちゃう」
「待て待て。だって俺、三十六だよ。充分、中年オヤジだろ。しかも今でも独り身で車を毎晩乗り回している成長しないままの中年男」
 え、ええ!? 今度は琴子がビックリする! せめてせめて、一、二歳だけ年上の同世代だと思っていたから?? 四つも年上! 結構年上!
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