ワイルドで行こう
「えー、見えないっ。それにオヤジなんて言葉、滝田さんに合わないですよ」
「俺の何を知っているっていうんだよ。洒落っ気も忘れた、油まみれで車の整備ばかりして、夜は愛車を乗り回しているだけの中年だぜ」
 でも。よく見ると。半袖でむき出しになっている腕は逞しいし。身体もスリムで引き締まっていて、ティシャツにデニムパンツというシンプルな格好でも、出ているところ一つもない。それに夏になったせいか、前に出会った時ほど黒髪も伸ばしっぱなしではなく、ごくごく普通にまとまっているし、顔だって……。
 じっと見つめたら、思いっきり彼と目が合ってしまう。大きな目、黒目が大きくてまつげも長いし、前に感じたとおり鼻筋も通って、けっこういい男。
 いい男っぷり――と、今夜は言いたくなる。
「やっぱりオヤジってイメージではないんですけど。少しだけ年上の同世代かと思っていたぐらい。どちらかというと『お兄さん』というイメージだけれど」
 今度は琴子が真顔で言ったから、彼が仰天した顔になる。
「お、お、お兄さん!? 俺が?? ち、違うよ。俺はな、オヤジなんだよ、オヤジっていったらオヤジなんだよ」
「そんな否定しなくても」
 ついに琴子は笑っていた。『若く見えますよ』と言った途端に、照れて慌てるなんて。あんなに落ち着いた行動が取れる人なのに、可笑しいと笑わずにいられなかったから。
 しかも独身……だって。こんな気持ち良い男っぷりを発揮する人が、よく見ると男前のこの人が独身というのも不思議なくらい。
 でも、と。蛍に囲まれているスカイラインを見た。
 ――確かに『生活感なさそう』ではある。
 あんな立派なスポーツカーを、夜気ままに乗り回すなんて家庭持ちの男がしていることではないと思う。
 車好きが高じて女性にのめり込めないタイプ、あるいは車のせいで女性とは長続きしないタイプかと感じた。
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