ワイルドで行こう
午後になり、昼休み。寝室にいる琴子の様子を見に行ってみる。やっと服用できた薬が効いているのか、静かに眠っていて英児はホッとする。
傍に行きベッドの縁に腰をかけ、そっと彼女の額に触れてみる。まだ熱かった。
「英児さん?」
眠りが浅かったようで彼女が目を開けた。
「どうだ」
「うん……」
弱々しい返事。
「なにか食うか。俺、ろくなもん作れないけどよ。粥ぐらいは作れるから。他に欲しいもんあったら言ってくれ。すぐに買いに行くからさ」
「うん……。いまはなにも」
『そうか』と英児も答えるのだが、やはりそんな元気のない琴子は見ていると辛い。だから、つい。
「琴子、実家に帰るか。お母さんのところに」
やはり琴子も驚いた顔を見せる。そして何故か、毛布にくるまって英児に背を向けてしまった。
「ううん。大丈夫」
そう言ってくれて英児はホッとするのだが、その背中が意地を張っているようにも見えてしまう。今度は逆に『大丈夫』と言ってくれたからこそ、矢野じいが言ったことは『正しい』と強く感じてしまった瞬間。
「やっぱ、帰ろうぜ。俺じゃあ……たいした看病できないからよ」
背中を向けたままの琴子が黙っている。英児も無言で待っていると。
「……うん。そうする」
力無い返事があった。そして英児もがっくりと落ちていく感覚を知ってしまう。
「じゃあさ、いますぐ行こう。昼休みだから送っていく」
「いいよ。タクシーで帰るから」
「なんだよ。俺、お前の夫になるんだぞ。そんな他人に気遣うようなことしないでくれよ」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて……。朝も病院に付き添ってくれたのにお昼休みまで……。それなら、お店を閉めてから連れて帰って。私もそれまでゆっくり眠っているから」
そこまで気遣ってくれたら何も言えない。『わかった』と英児も承知する。
その日の夜、英児は琴子を大内の実家へと帰した。
鈴子もびっくりはしていたが『でも。そろそろこんなことになるんじゃないかと、そんな気がしたのよね』なんて呟いたので、やはり矢野じいが言うとおり『まだ同居して二ヶ月だから』というのは、そんな『慣れていないからこその、疲れ』ということだったのだろう。