ワイルドで行こう
目に見えないけれど、眼鏡の母に後ろから抱きついて、またあちこちキスして母を困らせているんだなーと。たぶん、子供達が出かけていったと思って、二人きりだと思って、ちょっと……もしかすると小鳥が見ては大変なことになっていそう。
だけどもう小鳥は笑っていた。
「ほらね。一晩だってもたないんだから。家庭内別居でさえー」
声をかけると二人ともびっくりして離れるかな。母はそれで助かるかな?
「琴子、俺を見てくれよ」
なあ、琴子。
「私、怒っているんだから。怒って……いるんだから……」
見えないけど……。あーあ、ママも結局、パパが大好きなんだよね。琴子母が怒っているといいながらも、直球な男にあっさり折れちゃう時の甘い声になっちゃった。
聞こえないけど……。そろそろ、ちゅっちゅっとした音が聞こえてきそうなので、小鳥はさっと静かにそこを去った。
やっと『日常』に戻ったようで、小鳥も一安心。一度、小学生の時に、やっぱり影で二人が思いっきりキスをしているのを目撃してしまったことがある。もちろん、二人とも知らない。本当の大人のキスをしていたのを見てしまったのは、その一度だけ。やっぱり朝。あれも喧嘩した後だったのかな?
玄関をそっと出て、一階への階段を下りる。事務所へのドアがもう開いていて、光が漏れている。
開いているドアを覗くと。
「専務、おはようございます」
ネクタイ、シャツ姿の眼鏡のおじさんが、もうデスクに座ってパソコンに向かっていた。
親父さんの高校時代の後輩で、龍星轟の経理事務担当の武智専務。
「おはよう、小鳥。なあなあ、昨夜、親父さんとオカミさんどうだった?」
「ちょっとやっちゃったかな」
眼鏡のおじさんがそれを聞いて困った顔に。