ワイルドで行こう
「わかった。これが今日のスケジュールだよ、翔」
憧れのお兄さん。翔がそこにいた。
「翔兄ちゃん、おかえり」
大学を卒業して専門外のこの業界に『諦められない』気持ちひとつで飛び込んできた翔兄。すっかり整備士の姿になったけれど、元ヤン族の雰囲気いっぱいのこの事務室の中で少しだけ違う品良い雰囲気を持つ人。
「ただいま。小鳥」
来た頃は初々しい青年らしい短髪だったけれど、いまは少しだけ伸ばして、ちゃんとイマドキ風味を忘れずに整えているところがまたお洒落で大人っぽいお兄さん。黒い前髪から覗かせる普段は涼やかな目元がにっこり緩んで小鳥を見てくれる、そしてなんといっても翔兄らしい笑顔は愛嬌ある白い八重歯。その笑顔を見ただけで、小鳥はもう胸いっぱい、なにもかも翔の笑顔以外はすっとんで真っ白になってしまいそう。
「い、いってきます、学校……」
久しぶりにときめきすぎて、どうにかなりそうだったから、せっかく会えたのに小鳥はさっと事務室を後にして裏口を出た。
歩いて近くのバス停まで。
「小鳥――!」
翔兄の声が聞こえ、制服姿の小鳥は立ち止まり振り返る。
龍星轟整備士姿の翔兄が走ってくる。
「兄ちゃん、どうしたの」
「これ。約束していただろう」
彼の手に、銀色のリボンがしてある黒いショップバッグ。
「東京みやげ。時間があったからじっくり見て回って選んだ。兄ちゃんの自信たっぷりのみやげだからな」
「ありがとう、お兄ちゃん」
待っていたおみやげ。でも、想像していたものとは違う雰囲気のものだった。黒くて大人っぽいペーパーバッグ。お土産ってなにか小物とか雑貨だと想像していたから。
「小鳥も来年は大学生だろ。今からちょっとだけ背伸びしてもいいじゃないかと思って」
そして小鳥はショップバッグの中をちらっと覗いてびっくりする。
黒い洋服だった。しかもなんだか大人っぽいかんじ!
「え、これ。私に?」
「ああ。あちこち見て回ったんだ」
ウソ、私のために? こんな女らしくない私のために? お兄ちゃん、東京にいる間、空いている時間は私のためにあちこち見て回って探して選んでくれたの?
言葉にならなかった。何故って――。とっても嬉しくて! 小鳥はただ彼を見上げるだけになってしまう。
だけど、そんな大人の彼がまた。いつものように大きな手で小鳥の頭を撫でた。