ワイルドで行こう
彼と母の方が割り切りも要領も良いので、庭の手入れの話は直ぐにまとまった。
 彼と母がファックスのやりとりまでするようになり、琴子が早く帰れる日の夕に、わざわざ彼が業者を連れてきてくれ、日程も決まった。
 もう梅雨明けも間近の晴天の土曜日。彼が知り合いの業者と一緒に、また大内家へやってきた。
「よろしくお願い致します」
 母と共に、先日初めて顔合わせを済ませた植木職人に挨拶をする。
「タキさんからの依頼だから、任せてください」
 『タキさん』。植木職人の彼はそう言う。なんでも高校生時代の後輩なんだとか。じゃあ、彼も元ヤンキー? とか思ってしまう琴子。でもうん、確かに。植木職人の彼もそれっぽい風貌……かな? なんと言っても『靴下』かしら。琴子は植木職人の彼が、紫の靴下を履いているのを確認。そして。
「頼んだぞ、篠原」
 『うっす』。後輩に声をかけるお兄さんの足下も見事に『紫』。この前は赤だったなあなんて、思い出す琴子。あまりにも二人とも『らしく』て如何にも元ヤン男子軍団。
「あれ、琴子さん。なに笑っているの」
 琴子は首を振って誤魔化す。今はさらさらの黒髪でも、靴下は嘘つかないわね――なんて言えなくて。
「さて。俺は草引きでもするな」
「私もやります」
 彼はいつもの半袖ティシャツにジーンズ。琴子もタンクトップに長袖綿シャツ、そしてジーンズ。日焼けよけの帽子にロングアーム手袋という完全防備。それを見た彼が笑う。
「女の子って大変だな」
 自分がかぶっている帽子の大きなひさしに彼が隠れてしまったので、ちょっとだけ見上げて彼の顔を確かめる。そんな彼はもう日に焼けて浅黒い。
「滝田さんは、外でお仕事しているの」
「車庫で整備しているけど。まあ外みたいなものだよ。整備が出来た車を外で洗車したりワックスがけをして引き渡すから夏はどうしても焼けるな」
 本当に車屋さんなんだろうと、思う。
「滝田さんがお勤めの車屋さんは、どこにあるの」
「え、ああ。こことは反対の郊外、空港の近く」
 ――会社の名前、なんていうの。喉元まで出かかって咄嗟にやめる琴子。
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