ワイルドで行こう
 こんな詮索、厭らしい。そう思ったから。彼から話してくれるまで、待っているべきなのではないか。『信じてるなら』。それでも不安が収まらない琴子はつい。
「その車屋さんの社長さんはどんな方なの? やっぱり滝田さんと一緒で走り屋さんなの?」
 その問いに、彼が意外なことに出くわしたように目を見張った。琴子をじいいっと凝視している。
「え。私、なにか変なこと聞きました?」
 下心を見透かされたのかと思い、琴子はどっきり固まった。
「いや、なにも。あー、そうだなあ。なんていうか……琴子さんはやっぱり女の子なんだなあと思っただけ」
「え、え。どういうことなの?」
 社長さんのことを尋ねて、『その質問、女の子だね』てどういうこと? わけわからない?
 だけど彼が笑い出してしまう。
「あはは。うちの店の社長だろ。うん、生粋の走り屋。俺と同じ独身、もう夜ブンブンいわして峠道を走るのが大好き」
「イメージ通り。車屋さんは車が好きじゃないと駄目なのね」
 でも、彼がもう笑って笑ってどうしようもなくなる。琴子はますます首を傾げた。なんでそんなに可笑しい話だった?
「いやー。やっぱ、琴子さんは可愛い女の子さんなんだな」
 え、なに。いきなり『可愛い』て!? 『女の子さん』てどういう意図て言っているの? 意識しているだけにかあっと顔が熱くなってしまった。
「は、早くしましょう。お昼になっちゃう」
 ぎこちなく庭の片隅へと急いだ。彼も直ぐに真剣になって地面へとしゃがみ込む。
 作業を始めた彼も帽子を被る。車好きらしくF1レーサーが被っているようなキャップ帽。軍手をして、浅黒く焼けた手には小振りの三角鎌。それで地面をひっかきながら雑草を根こそぎにする。やっぱり手慣れていると思った。
 あまり庭の手入れをしたことがない琴子も同じ道具で頑張ってみるのだが、彼のように器用には出来ず、そして早くもない。梅雨明けが近い直射日光はじりじりとし、必死になっている分だけ汗を滲ませる。
 気がつくと、彼は庭半分向こうに行ってしまった。琴子は追い越されたところ、彼が琴子用に残したスペースをのろのろと片づけているだけ。
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