ワイルドで行こう
 庭木には脚立を登って高い木も丁寧に剪定してくれる篠原さん。彼もシャキシャキと枝を切り落とし進んでいるというのに。
 ちょっと情けなくなって、手際がよい彼をじっと見つめてしまっていた。
「琴子さん」
 彼が止まっている琴子に気がつく。出来ない女、『さぼっていないで、しっかりやれよ』と、何か小言でも言われるのかと構えた。
「充分だよ。俺とシノは、外で仕事すること慣れているからいいけど。琴子さんは室内のオフィスで長時間働けても、外は無理だって。中に入ってお母さんと休んでいいたらいい」
「そうっすよ。今日の日射し、完全に真夏日。熱中症とか馬鹿に出来ないんですよ。外で働く俺達がそう思うから。ねえ、タキさん」
 篠原さんまで――。
「そうだ。シノはお母さんに依頼されて仕事でやっているんだから当然だし、俺の場合は俺から『手伝う』と勝手に言い出したんだから。依頼主はなにもしなくていいんだよ」
 確かに、お金を払って依頼したからビジネスとしてはそうだろうけど。でも、言い方がとても優しい。この人達、ほんと優しすぎる……。
「いいえ。あと少しでお昼だから。うん、無理と思ったら止めるから大丈夫」
 やろうと決めた以上、彼らの優しさにこれ以上甘えて投げ出したくなかった。かといって、倒れたりして迷惑もかけたくないから、手元を懸命に動かし早くこの熱気から逃れようと働く。
 そうして目の前の雑草たちに集中していると、片腕が少し熱く感じた。
「無理しなくても」
 彼が隣に来てくれていた。彼の体温が肌に伝わる――。でも南側、日射しが琴子に当たらないようぴったりと日陰になるよう。すぐにわかった。彼のさりげない気遣いだって……。そのせいか、顔のあたりが少しだけヒンヤリしてきた。
「ちょっとしか出来なくて情けない。滝田さんがほとんどしてくれているし」
「琴子さんって、疲れていても疲れていないと言ってしまう頑張り屋なんだろうな。だからあのときも『徹夜明け』。真面目だから投げ出さない。堅実なんだ。お父さんの雰囲気、お母さんの雰囲気、この家を見ただけでわかるよ」
 そんなこと、初めて言われた。いや、でも当たっているだろうし、たぶん、そう見られている。でも琴子一人のことを、しっかりと語ってくれた人は初めて。
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