ワイルドで行こう
「ただ。両親に教えられるまま生きてきただけです。そうしていれば、『皆と同じように、同じ道で同じ事が起きて普通に生きていける』。当たり前だと決めつけていたんだと……最近はつくづく思うの」
地面から削いだ雑草を彼に負けないよう急いでかき集める。そして彼も手を休めない。もう彼の軍手は真っ黒だった。
「俺やシノのように、馬鹿みたいにひねくれた時期なんてなかっただろう」
「そうね……」
でも、違った。ある時から少しずつ……。
「でもね。待っているだけの自分だから三十歳過ぎちゃったのかなあとも思っているのよ。真面目に生きていれば黙っていてもちゃんと普通どおりに生きていけるって」
でも、違った。真面目にさえ生きていれば――きちんと手に入れられるものが手に入る、適齢期に起きることが起きる。たったそれだけを信じて『待つばかりのスタンス』、馬鹿だったなと思う。真面目に生きてきたのに、どうして私はまだ結婚していないんだろうとか、真っ直ぐに生きてきたのに、どうして三十になった途端、父と母が倒れたんだろうとか。思わぬ出来事に振り回されているうちに、恐れている三十歳なんていつのまにか超えていた。落ち着いて気がついたら三十二歳。仕事と家を行き来するだけ、最後の頼みだった彼氏には避けられて破局。見合い話だって。
だけれど、琴子も母と同様。ちょっと違う考え方が芽生えてきていた。
目の前の鎌を懸命に動かす、動かす。
「私ね、大人になるってこうしてお庭の手入れがちゃんと出来ることだと思うのよ」
「なにそれ」
琴子が削いだ雑草を、今度は彼がまとめてゴミ袋に放り込んでいくコンビネーションがいつのまにか。
「お洒落な大人とか、仕事が出来る大人とか。男性に愛される女性になるとか……。それもすごい素敵なことかも知れないけど、基盤はやっぱり『家を守れること』だと思うのよ。父が死んで母と二人になってつくづく思っている」
そしてついこの間まで、そこから母と一緒に目を逸らしてきた。だからこの庭が荒れていた。
「自分の身の回りをきちんと綺麗に出来る、快適に暮らせる。生活が出来る。それが出来てからお洒落で、仕事に打ち込んで……だと思うの」
「うん、そうかもしれない」
日射しの中、立ち上がっても彼は決して琴子に日射しを当てまいと影になってくれている。
地面から削いだ雑草を彼に負けないよう急いでかき集める。そして彼も手を休めない。もう彼の軍手は真っ黒だった。
「俺やシノのように、馬鹿みたいにひねくれた時期なんてなかっただろう」
「そうね……」
でも、違った。ある時から少しずつ……。
「でもね。待っているだけの自分だから三十歳過ぎちゃったのかなあとも思っているのよ。真面目に生きていれば黙っていてもちゃんと普通どおりに生きていけるって」
でも、違った。真面目にさえ生きていれば――きちんと手に入れられるものが手に入る、適齢期に起きることが起きる。たったそれだけを信じて『待つばかりのスタンス』、馬鹿だったなと思う。真面目に生きてきたのに、どうして私はまだ結婚していないんだろうとか、真っ直ぐに生きてきたのに、どうして三十になった途端、父と母が倒れたんだろうとか。思わぬ出来事に振り回されているうちに、恐れている三十歳なんていつのまにか超えていた。落ち着いて気がついたら三十二歳。仕事と家を行き来するだけ、最後の頼みだった彼氏には避けられて破局。見合い話だって。
だけれど、琴子も母と同様。ちょっと違う考え方が芽生えてきていた。
目の前の鎌を懸命に動かす、動かす。
「私ね、大人になるってこうしてお庭の手入れがちゃんと出来ることだと思うのよ」
「なにそれ」
琴子が削いだ雑草を、今度は彼がまとめてゴミ袋に放り込んでいくコンビネーションがいつのまにか。
「お洒落な大人とか、仕事が出来る大人とか。男性に愛される女性になるとか……。それもすごい素敵なことかも知れないけど、基盤はやっぱり『家を守れること』だと思うのよ。父が死んで母と二人になってつくづく思っている」
そしてついこの間まで、そこから母と一緒に目を逸らしてきた。だからこの庭が荒れていた。
「自分の身の回りをきちんと綺麗に出来る、快適に暮らせる。生活が出来る。それが出来てからお洒落で、仕事に打ち込んで……だと思うの」
「うん、そうかもしれない」
日射しの中、立ち上がっても彼は決して琴子に日射しを当てまいと影になってくれている。